もっちり感は、もち米の分子構造から始まっていた
鈴鹿に来たら行くと決めていました。

もち久(もちきゅう)の「立石餅(たていしもち)」。地元の和菓子好きの間では知らない人がいないとされていますが、県外への露出はほぼゼロに近い。つまり、現地に行かないと食べられない。研究者としての嗅覚が、そういうものに反応しないわけがありません。
ただし、「行けば買える」ではありませんでした。
(筋肉研究者として、また2023・2024年ボディビル世界大会日本代表として、食の成分を見る目は一般の食レポとは少し違うかもしれません。)

1回目:営業時間ギリギリに到着。すでに売り切れ。
2回目:お昼に再訪。またも売り切れ。
3回目:開店と同時に訪問し、立石餅が出来上がっていなかったので、予約を入れ、近くのオークワで営業時間外に受け取り、ようやくゲット✨
3回分の移動コストをかけて手に入れた餅が、その価値があるかどうか。ちゃんと検証してきました。
結論から言うと、この餅は食感の設計が異常に丁寧でした。3回通ったことへの後悔は、一切ありません。今日はその理由を、実食データと一緒にお伝えします。
まず、対象を知る。立石餅とは何者か

検証の前には、必ず対象を知る。これは研究もボディビルも同じ姿勢です。
立石餅は、細長く伸ばしたお餅で小豆餡を包み、表面に直火で焼き目をつけた伝統的な生菓子です。鈴鹿の「もち久」が手がける立石餅は、地元民の日常に溶け込んだ、口コミだけで生き残ってきた存在です。
広告なし、SNSなし、それでも売り切れが続く。これは口コミという最も信頼性の高いデータが、品質を保証し続けている状態です。
実食レビュー:このもっちり感は、どこから来るのか
1. 「もっちり」の正体——もち米だけが持つ、特別な構造

一口かじると、ずっしりとした弾力が返ってきます。それでいて重くない。表面の香ばしい焼き目と、内側のなめらかなもっちり感が、全く別のテクスチャーとして届いてくる。
この「もっちり」は、うるち米(普通のご飯)では絶対に出せない食感です。素材の構造レベルから、設計が違います。
🔬 Lab Note:もち米だけがあんなに伸びる理由
米のでんぷんは「アミロース」と「アミロペクチン」の2種類で構成されています。うるち米はこの2つを約2:8の割合で含みますが、もち米はアミロペクチンをほぼ100%含みます。
アミロペクチンは高度に枝分かれした分岐構造を持ち、加熱・加水によって非常に高い粘弾性を発揮します。一方、アミロースは直鎖構造のためゲル化しやすく、冷めると固まる性質がある。もち米にアミロースがほぼ含まれないことが、「よく伸び、冷めても比較的やわらかい」という餅の特性をそのまま説明しています。

研究者の目線で見ると、アミロペクチンの分岐構造が生み出す粘弾性は、合成高分子でも再現が難しいレベルの設計です。もち米という素材が、分子構造の段階から「伸びる」ように設計されている。職人はそれを数値で管理するわけではないのに、素材の特性を最大限に引き出している。それがすごい👏
2. 粒あんの「軽さ」と「コク」が両立している理由
中に包まれているのは、粒あん。小豆の粒がしっかり残っていて、コクがある。なのに甘さはすっきりとしていて後味が軽い。なのに、食べた満足感はしっかりある。
このバランスの正体は何か。
🔬 Lab Note:「塩味の対比効果」が甘みを制御している
お餅にはほのかな塩気が含まれています。少量の塩が加わると、甘みをより鮮明に感じやすくなる「対比効果」が起きます。これは食品科学では確立された現象で、0.1%(17mM)の塩添加がグルコース・スクロース・フルクトースなど複数の甘味物質の甘みを増強することが、健康な被験者を対象とした官能評価で確認されています。
つまり、粒あんの糖度が控えめであっても、餅の塩気との組み合わせで「甘みがしっかり感じられる」という設計が成立しています。砂糖の量を増やさずに満足感を出せるのは、この対比効果をうまく使っているからと考えられます。
(参考:近藤高史ほか「塩による甘味増強作用の検証」塩科学研究財団 助成研究報告 No.2344、近畿大学農学部)

「甘すぎないのに満足感がある」という感想を持ったなら、それは塩の仕事です。砂糖を足すのではなく、塩でコントロールする。これ、栄養管理の発想ともちょっと似ています。
3. 時間が経ったら「追い焼き」が正解
立石餅は生菓子なので、時間が経つと餅が硬くなります。購入後すぐに食べられない場合は、トースターやフライパンで軽く温め直すのがおすすめです。
🔬 Lab Note:追い焼きで「やわらかさ」と「甘み」が同時に戻る理由
餅が硬くなるのはでんぷんのβ化(老化)が進むから。加熱すると再びα化(糊化)が起きて、もっちりとした食感が戻ります。
ここに、もうひとつの変化が重なります。甘味受容体に関わるイオンチャンネル「TRPM5」は温度依存性を持つ熱感受性チャンネルです。研究では15〜35℃の範囲で活性が急激に上昇し、温度が高いほど甘味化合物への神経応答が強まることが確認されています。冷めた状態と温め直した後で「甘みの感じ方が違う」のは感覚の錯覚ではなく、受容体レベルで起きている変化です。やわらかさと甘みが、温めるだけで同時に引き上げられる。
(参考:Talavera K, et al. “Heat activation of TRPM5 underlies thermal sensitivity of sweet taste.” Nature, 438, 1022–1025, 2005)

冷めた状態と追い焼き後を食べ比べると、甘みの輪郭がはっきり変わります。同じ粒あんなのに。温度が受容体の感度を変えているだけで、砂糖の量は何も変わっていない。これ、栄養管理の視点からも面白くて、「甘いものを食べたい」という感覚は、素材ではなく温度でもコントロールできるということです🤓
ボディビルダー目線で見た「立石餅」
💪 Bodybuilder’s View
餅(もち米)単体100gあたりの糖質は約50g、脂質はほぼゼロ(文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」より)。ボディビルの試合前にカーボローディングで和菓子を選ぶ理由のひとつが、まさにここです。脂質をほぼ含まず、でんぷん由来の糖質が素早くグリコーゲンに変換される。
ただし立石餅は餅+粒あんの複合品です。あん由来の糖質が加わるため、1本あたりの正確な栄養数値はパッケージ記載を必ず確認してください。摂取タイミング(トレーニング前後)と本数は、自分のカロリー設計に合わせて調整を。
まとめ:もっちり感は偶然ではなく、素材の設計でした
もち久の立石餅は、もち米という素材が持つ分子構造の特性を、長年の職人技で引き出している一品でした。
アミロペクチンの分岐構造が生む粘弾性、塩の対比効果が引き出す粒あんの甘み、温度によって変わる、甘みの受容体の感度。バラバラに見える要素が、一個の餅の中で全部つながっています。
地味に見えるかもしれないけれど、このレベルの食感設計はちゃんとすごいです。
鈴鹿に行く機会があれば、午前中のうちに寄ってみてください。
店舗情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | もち久(もちきゅう) |
| 住所 | 三重県鈴鹿市神戸2丁目10-1 |
| アクセス | 近鉄鈴鹿線「鈴鹿市駅」から徒歩約5分 |
| 営業時間 | 8:00〜15:00 |
| 定休日 | 火曜日・木曜日 |
| 駐車場 | あり(店舗横) |
| 価格 | 立石餅 1本 120円(税込)※2026年6月時点 |
| 主な商品 | 立石餅、大福、季節の生菓子など |

神戸(かんべ)城跡からも近い、城下町の風情が残るエリアです。店構えがいかにも「地元に愛されてきた餅屋さん」という佇まいで、扉を開ける前からテンションが上がります。ただし、立石餅は午前中どころか開店直後に売り切れることもあります。確実に手に入れたいなら、電話 or 開店前に訪問して予約を入れるのが一番確実です。時間外での受け取りの場合は近くのオークワで対応してもらえました。私は3回通ってようやくこの方法にたどり着きました。




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