筋トレの翌日、階段を降りるのがつらくなった経験はありますか?
あのジワジワとした筋肉痛(DOMS:遅発性筋肉痛)は、激しい運動でダメージを受けた筋繊維が修復される過程で起きる炎症反応です。
パーソナルトレーナーとして多くのクライアントに関わっていると、「筋肉痛があるからトレーニングを休んだ」という声を本当によく聞きます。実際、私自身も普段からトレーニング毎にDOMS(遅発性筋肉痛)と毎日向き合っています。
そこで最近、スポーツ栄養の世界で注目を集めているのが オメガ3(EPA・DHA) です。
2025年1月、スポーツ栄養学の国際学会ISSNがオメガ3に関する最新のポジションスタンド(公式見解)を発表しました。今回はその内容を研究者視点で読み解きながら、アスリートとしての実践法もお伝えします。

私が競技の減量期に必ずやっていること・・・
それが「三食のうち一食、必ずサバを食べる」です。
減量中はカロリーを絞りながら追い込みトレーニングを続けるので、筋肉痛との闘いが本当に過酷になります。そこでサプリではなく、食事でオメガ3(EPA・DHA)を確保することにこだわってきました。
サバを選ぶ理由はもうひとつあって、魚の油が腹持ちの良さに直結するんです。カロリー制限中でも満足感が持続するので、精神的にもかなり助かります。科学的にも理にかなっているとわかったときは「やっぱり体の感覚は正直だな」と思いました。
◆ そもそもオメガ3(EPA・DHA)とは?
オメガ3とは、体内で合成できない必須脂肪酸のひとつです。食事やサプリメントから摂取する必要があります。
スポーツ栄養で特に重要なのが以下の2種類:
- EPA(エイコサペンタエン酸):炎症反応の調節に関与。筋肉の修復プロセスに影響を与えるとされる
- DHA(ドコサヘキサエン酸):細胞膜の流動性を高める。筋細胞膜に取り込まれることで、栄養素の取り込み効率に関わる
ちなみにα-リノレン酸(ALA)という植物性のオメガ3もありますが、体内でEPA・DHAへの変換効率が非常に低いため、アスリートにとっては EPA・DHA を直接摂取することが重要 です。
🔬 サイエンスメモ ◆ ISSNポジションスタンド2025 の公式見解
ISSNが文献を精査した結果、アスリートへの公式見解として以下が発表されました。
① アスリートはオメガ3が不足しやすい
一般成人に比べて、アスリートはオメガ3が不足するリスクが高いとされています。血液中のオメガ3濃度を示す指標「オメガ3インデックス(O3I)」の理想値は 8%以上。簡単に言うと、赤血球の膜に含まれる脂肪酸のうち、EPA+DHAが8%以上あれば「十分な状態」と判断されます。ところが、大学フットボール選手404名を対象にした研究で全員を測定したところ、8%以上をクリアした選手はゼロでした。34%が「高リスク」、残り66%が「中リスク」という結果です。
激しく身体を動かすほど、オメガ3は消費されやすくなります。「運動量が多いから余計に足りなくなる」というのが実態です。筋トレや競技スポーツを日常的に行っている方は、特に意識して摂取する必要があります。
② DOMS(筋肉痛)の主観的な痛みを軽減する可能性がある
複数の研究で、EPA・DHAを継続摂取したグループは、筋肉に負荷がかかる運動(下り坂ランニングやスクワットなど)の後に感じる筋肉痛が軽くなったと報告されています。
ここで言う「筋肉痛の軽減」とは、血液検査の数値ではなく、「どのくらい痛いか」という本人の感覚の話です。「昨日より階段が楽に降りられた」というレベルの変化をイメージしてください。
ただし、すべての研究で同じ結果が出ているわけではありません。投与量・期間・運動の種類が研究によって異なるため、ISSNは「効果がある可能性がある」という表現にとどめています。これは弱気なのではなく、データが揃っていない段階で断言しない、科学的に誠実な姿勢です。
③ 筋力はトレーニングとの組み合わせで改善する可能性
オメガ3は筋トレと組み合わせることで、筋力アップの効果を底上げする可能性が示されています。
ポイントは「量と期間」です。たくさん・長く摂るほど効果が出やすい傾向があり、逆に言うと少量を短期間だけ飲んでも変化は感じにくいということです。
オメガ3単体で筋力が上がるわけではありません。あくまで「筋トレあってこそ活きる」という位置づけです。
④ 正直に伝えます:筋肥大への効果は限定的
ここは正直にお伝えします。「オメガ3を飲めば筋肉が増える」は、現時点では科学的に支持されていません。
特に若い世代では、オメガ3だけを摂っても筋肉量が増えるという明確なデータはないのが現状です。筋肉を増やすための基本は変わりません。
- 食事でしっかりタンパク質を摂る
- 適切な負荷でトレーニングを続ける
この2つが土台で、オメガ3はあくまでその回復をサポートする脇役です。主役と脇役を入れ替えないようにしてください。
◆ なぜオメガ3がDOMSを軽減するのか? メカニズムを解説
EPA・DHAがどのように筋肉痛に作用するか、そのメカニズムを説明します。ここに、この論文の最も「面白い逆説」があります。
【メカニズムの流れ】
EPA・DHAを毎日摂り続ける
↓
筋肉の細胞を包む「膜」にオメガ3が蓄積される
(これに最低4〜6週間かかる)
↓
膜の性質が変わり、柔軟性が上がる
(硬いラップ→やわらかいラップに変わるイメージ)
↓
痛みを脳に伝える信号が調整される
↓
「痛い」と感じる強さが和らぐ
オメガ3は「炎症そのもの」を消しているわけではない。
ISSNポジションスタンド2025はこの点を明確に述べています:
ω-3 PUFA supplementation does not decrease measures of inflammation following exercise-induced muscle damage (オメガ3の補給は、運動誘発性筋損傷後の炎症指標を低下させない)
つまりこういうことです。
血液検査をしても「炎症が減った」というデータは出ない。
でも「昨日より痛みが楽になった」という体感は本物。
数値は変わっていないのに、痛みだけが和らぐ。
一見おかしいように思えますが、これが研究で繰り返し確認されている事実です。「体の感覚」と「血液データ」が必ずしも一致しないのは、痛みが単純な炎症反応だけで決まるわけではないからです。
| 指標 | ISSNの見解 |
|---|---|
| 主観的な痛み(DOMS) | ✅ 軽減する可能性あり |
| 炎症マーカー(IL-6・TNF-α・CRP) | ❌ 有意な低下は認められない |
| 損傷マーカー(CK・LDH) | ❌ 有意な低下は認められない |
ただし、誤解しないでほしい点が一つあります。
「炎症に対してまったく効かない」わけではありません。
オメガ3を4週間以上継続して摂ると、体の中で炎症を落ち着かせる物質が作られることがわかっています。ただしこれは、飲んですぐ炎症が消えるような「即効性」ではありません。
イメージとしては──
即効薬ではなく、じわじわ体質を整えるタイプ。
炎症を急激に抑えるのではなく、数週間かけて、過剰になりすぎた炎症反応をマイルドに整えていくというはたらきです。だから「飲んだ翌日に効果を実感できる」ものではなく、続けることで初めて意味が出てくるものだと理解してください。
正確に言えば:
「筋トレ直後の炎症をすぐに消すわけではないが、毎日の積み重ねで、体の炎症反応を穏やかに整えてくれる可能性がある」
これが現時点での科学的に誠実な表現です。

研究者として言うと、この「逆説」こそがオメガ3研究の一番面白いところです。「痛みが減った」という体感は本物でも、それが「炎症が消えた」を意味するわけではない。体の感覚と血液データが一致しないとき、科学はまだ途中にある。それを正直に伝えることが、情報を発信する側の責任だと思っています。
一つだけ、必ず覚えておいてほしいことがあります。
オメガ3は続けないと意味がありません。
体の細胞にオメガ3が十分に蓄積されるまで、最低でも4〜6週間かかります。1〜2週間飲んで「効果がない」とやめてしまうのが、一番もったいないパターンです。
「毎日の食事にサバを取り入れる」くらいの気持ちで、習慣として続けることが前提です。
◆ 何をどのくらい摂ればいい? 用量・期間・摂取方法
目安となる摂取量
- 目標: EPA + DHA 合計 1.8〜4g/日
- 期間: 最低4週間。効果実感には6〜7週間以上の継続が必要
- タイミング: 脂溶性のため、食事と一緒に摂ると吸収効率が上がる
食事から摂る場合
| 食材 | 100gあたりの EPA+DHA 目安 |
|---|---|
| まさば(生・国産) | 約1.7g |
| たいせいようさば(生・輸入) | 約4.4g |
| さば水煮缶 | 約2.3g |
| マイワシ(生) | 約2.1g |
| サーモン(アトランティック・生) | 約1.5g |
※出典:文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」脂肪酸成分表より。魚の個体差・季節・部位により変動します。
国産のまさば(生)は約1.7g/100gですが、ノルウェー産などのたいせいようさば(生)は約4.4g/100gと、同じ「サバ」でも大きな差があります。さば水煮缶(約2.3g)を基準にすると安定して計算しやすいです。
ISSNの推奨下限(1.8g/日)を食事で狙うなら:
- たいせいようさば:約100gで届く
- 国産まさば・さば水煮缶:150〜200gが目安
なお、たいせいようさばを150g食べると約6.6gになりISSNの目安上限をやや超えます。体に害があるレベルではありませんが、「水煮缶100〜150g」が量のコントロールしやすくおすすめです。
サプリメントを使う場合
魚油(フィッシュオイル)が一般的ですが、ISSNのポジションスタンドでは 藻類油(アルガルオイル) も「サステナブルで汚染物質リスクが低く、ベジタリアンにも適している」と評価されています。サプリを選ぶ際は EPA+DHA の含有量を確認 してください。形態はTG(トリグリセリド)形態またはrTG(再エステル化トリグリセリド)形態と記載された製品が吸収効率の面でベターです。
◆ おすすめ食べ方|サバ×大根おろしで吸収効率を最大化
食べ方ひとつでEPA・DHAの摂取効率は大きく変わります。
まず知っておきたいのが、EPA・DHAは熱に弱いという性質です。サバを網で焼いたり揚げたりすると、EPA・DHAが最大で約30%前後損失するという報告があります。
加熱処理済みのさば水煮缶は缶の中の汁ごと摂取できるため、この損失を最小限に抑えやすい優れた選択肢です。この事実が、次に紹介するレシピの「なぜ水煮缶がベストか」につながります。

私が競技の減量期に食べているのは、サバの塩焼きや水煮缶に大根おろしをたっぷりかけたもの💪です。「なんとなく合う気がして」という直感で続けていたのですが、科学的に調べてみたら理由がちゃんとありました。
🔬 サイエンスメモ:サバ×大根おろし 3つの科学的メリット
出典:Jäger R. et al., Journal of the International Society of Sports Nutrition, 22(1), 2025年1月15日
① 3大消化酵素が脂質・タンパク質の吸収をサポートする
大根おろしには以下の3種類の消化酵素がすべて含まれています:
| 酵素 | 働き |
|---|---|
| アミラーゼ(ジアスターゼ) | 炭水化物の分解を助ける |
| プロテアーゼ | サバのタンパク質(約21g)の分解・吸収をスムーズにする |
| リパーゼ | EPA・DHAなどの脂質の消化を助け、胃もたれを防ぐ |
生の魚油と豊富なタンパク質は体に優れた栄養素ですが、人によっては消化に負担がかかることもあります。大根おろしはその消化負担を軽減してくれる、理にかなった組み合わせです。
② ビタミンCが体内でのEPA・DHA酸化を抑制する
EPA・DHAは非常に酸化しやすい脂肪酸という弱点があります。大根おろしに含まれるビタミンC(抗酸化物質)を同時に摂ることで、体内での脂質酸化を抑え、EPA・DHAを新鮮な状態のまま代謝に回すことができます。
③ イソチオシアネートの代謝促進・解毒作用
大根をすりおろすと細胞が壊れ、イソチオシアネートという硫黄化合物が生成されます。これには強い抗酸化・殺菌作用があり、焼き魚の焦げに含まれる発がん性物質の毒性を抑える効果や、代謝を活性化させる働きが報告されています。
メリットを最大化する4つのコツ
① 食べる「15分以内」にすりおろす
大根おろしのビタミンCや消化酵素は、すりおろした瞬間から徐々に減少・失活が始まります。2時間ほど放置するとビタミンCは約半分に減少します。また、イソチオシアネートはすりおろし後15〜20分をピークに揮発してしまいます。食べる直前(15分以内)におろすのが最も合理的です。
② 汁ごと使う
ビタミンCや酵素の多くはすりおろした際の「汁」に溶け出しています。汁を絞り捨てず、ポン酢などと合わせてそのままソースとして使うのがベストです。
③ すりおろしたらすぐポン酢(またはレモン汁)を和える
大根にはビタミンCを酸化・分解する**アスコルビナーゼ(酸化酵素)**が含まれています。すりおろしてすぐにポン酢やレモン汁を少量和えることでpHが下がり、アスコルビナーゼの活性をブロックできるため、ビタミンCの減少をさらに緩やかに抑えることができます。「サバにポン酢をかける」食べ方は栄養保持の面でも理にかなっているわけです。
④ 「生のまま」冷たい状態でのせる
消化酵素とビタミンCは熱に弱く、50〜70℃で失活します。焼き上がったサバや温めた水煮缶の上に生のまま冷たい状態でたっぷり盛り付けるのが正解です。
食事ファースト:私がサプリより「サバ」を選ぶ理由
💪 ボディビルダー的メモ|実践法
食事ファースト:私がサプリより「サバ」を選ぶ理由
私の競技期のオメガ3戦略はシンプルです。
三食のうち一食、必ずサバを食べる。
ISSNの推奨下限(1.8g/日)を食事で狙うなら、種類別の量の目安は上の食材テーブルを参照してください。日常使いには水煮缶100〜150gが量のコントロールしやすくおすすめです。
減量期は空腹感との戦いでもあります。「おなかが空いたから余計なものを食べてしまった」という失敗を、サバの脂がもつ満足感が防いでくれます。体が求めているものを食べながら、科学的な根拠もある。それがサバにこだわる理由です。
🔬 食事から摂りたい、3つの科学的理由
① 吸収形態が自然に近い(ただし長期では差は限定的):魚中のEPA・DHAはトリグリセリド(TG)形態。短期研究ではサプリのエチルエステル(EE)形態より吸収が高い傾向がありますが、長期継続では差が縮まる研究もあります。食事ファーストのより強い理由は②③にあります。
② 食品マトリックス効果:サバにはEPA・DHAだけでなく、タンパク質(約21g)・ビタミンD・B12・セレンが同時に含まれます。これらが相乗的に働く食品マトリックス効果はサプリでは再現できません。
③ サプリの酸化リスクを回避できる:フィッシュオイルサプリは酸化しやすく、品質に製品差があります。鮮度を自分で選べる食事ファーストは、品質管理のリスクを食卓レベルでコントロールできます。
出張や遠征で魚を食べられないときはサプリで補います。ただしサプリはあくまで「食事の穴埋め」。競技期のベースは食事から、というスタンスは変わりません。(サプリの選び方は上の用量セクションを参照。)
💪 おすすめの時短レシピ(減量期の定番)
サバ水煮缶(または塩焼き)に、直前にすりおろした大根おろしを汁ごとたっぷりかけて、ポン酢+生姜(またはネギ)を散らすだけ。調理時間5分以内で、タンパク質・EPA・DHAを高い消化吸収率で摂れる一品が完成します。PFCバランスも優秀で、減量期の主菜として繰り返し食べても飽きません。

減量期の筋肉痛は、増量期より回復が遅く感じます。カロリーが少ない分、修復のエネルギーが足りないからだと思っています。だからこそ減量期こそオメガ3をきちんと確保する。過酷な時期ほど、栄養の「質」で差がつきます💪
◆ まとめ
今回のポイントをまとめます。
✅ ISSNが認めたこと
- アスリートはオメガ3が不足しやすい
- EPA・DHAの継続摂取は主観的なDOMS(筋肉痛)を軽減する可能性がある
- 抵抗性トレーニングと組み合わせることで筋力が向上する可能性がある
⚠️ 正確に理解しておきたいこと
- 効果には「1.8〜4g/日を6〜7週間以上継続する」という条件がある
- 若年者の筋肥大(筋量増加)への効果は現時点では限定的
- あくまで回復を補助するツールであり、トレーニングとタンパク質摂取が根幹
「筋肉痛をゼロにする魔法」ではなく、「翌日のトレーニングの質を落とさないための準備」として位置づけると、オメガ3との上手なつきあい方が見えてきます。







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