前回のコラムでは、筋肉を護りながら脂肪だけを削ぎ落とすための絶対条件として、毎日マイナス300〜600kcalの『マイルドなアンダーカロリー』を作る重要性をお話ししました。
しかし、ここで一つの大きな問題(リスク)が発生します。エネルギーが不足している状態(アンダーカロリー)において、私たちの身体は脂肪だけでなく、ハードに鍛え上げた貴重な筋肉をも分解してエネルギーに変えようとしてしまうのです。
この恐怖の現象こそが「カタボリック(異化作用)」です。
減量期にこのカタボリックを徹底阻止し、筋肉の盾となってくれる最重要マクロ栄養素
それがタンパク質(プロテイン)です。
今回は国際スポーツ栄養学会(ISSN)が2017年に発表した身体組成(Body Composition)に関する公式声明[2017年発表 / DOI: 10.1186/s12970-017-0174-y]をベースに、一般常識を遥かに凌駕する「減量期のタンパク質摂取基準」とその科学的根拠を紐解きます。
いつか私もISSNの国際学会で自身の筋肉研究の成果を発表することを目標に、日々実験に励んでおりますが、今回はその最前線の知見をみなさんに共有します。

アンダーカロリーという『飢餓状態』において、タンパク質不足のまま放置するのは、筋肉を自らハサミでチョキチョキ切り刻むようなもの🫨 理系ビルダーとして、カタボリックだけは絶対に万死に値するわ🤦♀️さあ、科学の力で筋肉分解にプロテクトをかけましょう👩⚕️
【全5回】科学的減量ロードマップ
- 第1回:脂肪減少の絶対条件と、筋肉を護る最適な減量ペース
- 第2回(今回):減量期の筋肉を守る盾「タンパク質」の科学
- 第3回:糖質制限vs脂質制限。アンダーカロリー下での最適比率
- 第4回:代謝低下を打破する「リフィード/ダイエットブレイク」の理論
- 第5回:科学が導く、コンディションを極限まで仕上げる最終調整(ディプリート&カーボアップ)
1. 驚異の基準値:除脂肪体重1kgあたり「2.3〜3.1g」の根拠
💡 この節の重要ポイント(結論)
- 減量期の筋肉量維持には、一般的な基準(体重1kgあたり1.4〜2.0g)を遥かに凌駕する、除脂肪体重(FFM)1kgあたり2.3〜3.1gという超高タンパク質食が必要。
- カロリー欠損下ではタンパク質の一部がエネルギーとして直接燃えてしまうため、その分をあらかじめ「上乗せ」しておく必要がある。
厚生労働省などの一般的な食事基準や、増量期の推奨量(体重1kgあたり1.4〜2.0g)に慣れている方にとって、ISSNが減量期のアスリート向けに提示した以下の数値は、まさに驚異的かもしれません。
- ISSN推奨基準(減量時): 除脂肪体重(FFM)1kgあたり 2.3 〜 3.1 g のタンパク質摂取
【計算例】体重65kg、体脂肪率15%(除脂肪体重55kg)の人
この基準に当てはめると、1日に必要なタンパク質量は 約126g 〜 170g にも達します。
なぜこれほどまでに大量のタンパク質が必要なのでしょうか?理由はシンプルです。
カロリーが足りない時、摂取したタンパク質の一部は筋肉の合成(アナボリック)ではなく、エネルギーとして直接消費されてしまいます。そのため、「エネルギーとして燃えてしまう分」をあらかじめ見越して、通常時より多めに上乗せして送り込んでおく必要がある、というのが分子レベルでの科学的結論なのです。

『プロテインの摂りすぎは腎臓に…』なんて思う方いらっしゃいますよね。健康なトレーニーを対象にした最新のエビデンスにおいて、このレベルの高タンパク質摂取による健康リスクは否定されています。むしろ、エネルギー欠損下ではこれくらい過剰気味にアミノ酸プールを満たしておかないと、筋肉の分解を食い止めることは不可能のようです!
2. 論文の単語を読み解く:これは「アスリート限定」の数値なのか?
💡 この節の重要ポイント(結論)
- 「除脂肪体重1kgあたり2.3〜3.1g」という数値はプロアスリート限定ではない。
- ISSNの論文が指し示す通り、「Lean(引き締まった)」「Resistance-trained(激しい筋トレをしている)」「Hypocaloric(アンダーカロリー)の3つの条件が揃えば、一般トレーニー(ジムで筋トレしている方)にも完全に当てはまる。
ここで、「こんなに大量のタンパク質が必要なのはプロのアスリートやボディビルダーだけで、一般のトレーニーには関係ないのでは?」という疑問を持つ方もいるでしょう。
結論から申し上げましょう。一般のトレーニーであっても、条件を満たしていれば100%当てはまります。
論文の記述を厳密に読み解くと、この驚異の数値が必要になるのは「アスリートという肩書き」ではなく、以下の3つの前提条件が揃った時だからです。
ISSNが示す、超高タンパク質食が必要な「3つの前提条件」
- Lean(すでに一定レベルで身体が引き締まっていること) 体脂肪がまだ十分に多くある段階の人は、エネルギー不足の際に自分の「体脂肪」をエネルギーとして高効率に引き出せるため、筋肉が分解されにくい状態にあります。しかし、すでに引き締まった身体(バキバキを目指して絞り込んでいる段階)の人の場合、身体は防衛本能として脂肪を温存し、筋肉を分解(カタボリック)しようとするリスクが跳ね上がります。
- Resistance-trained(日常的に激しい筋トレを行っていること) 週に数回、しっかりと筋肉に強い負荷(レジスタンストレーニング)をかけている人が対象です。筋トレによる強い刺激があるからこそ、送り込まれた大量のタンパク質が筋肉の保護や修復へと優先的に分配されます。
- Hypocaloric conditions(アンダーカロリー状態であること) 現状維持や増量期(十分なエネルギーがある状態)であれば、タンパク質は体重1kgあたり1.4〜2.0gもあれば十分です。エネルギーが足りない過酷な環境下だからこそ、この高い基準値が必要になります。
つまり、「趣味で本気でボディメイクをしていて、日常的にハードな筋トレを行いながら、さらに脂肪を削るために食事制限をしている一般トレーニー」であれば、このエビデンスは完全にあなたのためのものなのです。

もし『筋トレはしていない、体脂肪も高め、単に体重を落としたい』というダイエット初期の人なら、ここまで過剰に摂る必要はない(通常の1.4〜2.0g/kg程度でOK)ので現状を把握して適切な量を摂取しましょう👩⚕️✋
3. 『プロテインの摂りすぎは腎臓に…』という古い迷信を科学で一蹴する
高タンパク質な食事を実践しようとすると、必ずどこからか「そんなにタンパク質を摂ったら腎臓を壊すよ」という声が聞こえてきます。しかし、これは医学界における「すでに腎臓病を患っている患者への食事療法」と「健康なトレーニーの正常な生理反応」を混同してしまった、定説です。
ISSNの公式声明では、この内臓への安全性リスクを徹底的に検証した、1年間に及ぶ長期クロスオーバー試験の結果が引用されています 。

『クロスオーバー試験』っていうのは、期間の途中で全員の食事内容をガチャンと入れ替える(交差させる)実験デザインのこと。
全員が『高タンパク』と『通常』の両方を経験するから、『もともと内臓が強い人ばかりが高タンパク側に偏っていた』っていう体質の個体差(バイアス)を完全にリセットできるメリットがあります!
レジスタンストレーニングを行っている引き締まった被験者に対し、一般的な推奨量の3〜4倍に匹敵する「体重1kgあたり2.5〜3.3g」という超高タンパク質食を1年間摂取させ、血液検査を含む臨床マーカーを徹底的に追跡調査しました 。
その結果、包括的な代謝パネルや血中脂質プロファイルにおいて、一切の有害な悪影響や内臓へのダメージは認められませんでした 。
筋トレによって激しく筋肉の合成と分解を繰り返している健康な身体にとって、大量のアミノ酸を迅速に処理・ハンドリングすることは正常な生理機能であり、病的な破壊とは根本的に異なることが科学的に立証されているのです。

『腎臓病の人がタンパク質を制限すべき』という医学的ルールを、なぜか『健康なトレーニーがタンパク質を摂ると腎臓病になる』という風に、因果関係をアベコベに解釈しちゃったのがこの古い迷信の正体。
ISSNの声明でも、1年間の長期にわたって体重1kgあたり3g以上の超高タンパク質をぶち込んでも臨床的に完全に安全だったって明確にバックデータが出ているのです。 腎臓のろ過機能が正常で、ガシガシ筋トレしてアミノ酸プールを消費している方の身体なら問題ないようです👩⚕️
4. 三大栄養素で最強の「満腹感(サティエティ)」による食欲制御
💡 この節の重要ポイント(結論)
- タンパク質は炭水化物や脂質と比較して、最も高い満腹感(Satiety)を誘発する栄養素である。
- 高タンパクな食事は、満腹ホルモン(PYY, GLP-1)の分泌を促進し、空腹ホルモン(グレリン)を抑制するため、意志の力ではなく生化学的に食べ過ぎを防げる。
減量期のもう一つの敵は、強烈な「空腹感」です。ここでもタンパク質は驚異的な恩恵をもたらします。
科学的に、タンパク質は炭水化物や脂質と比較して、最も高い満腹感(Satiety:サティエティ)を誘発する栄養素であることが証明されています。高タンパク質な食事を摂ると、脳の満腹中枢を刺激する満腹ホルモン(PYYやGLP-1など)の分泌が促進され、逆に空腹を呼び起こすグレリンの分泌が抑制されます。
ISSNの声明でも、タンパク質比率を高めた食事は「自発的な総摂取エネルギーの減少をもたらす」と指摘されています。つまり、意志の力で我慢するのではなく、生化学的なシステムとして「自然と食べ過ぎを防ぐ」ことができるのです。
5. 体重1kgあたり3g超の「超高タンパク質食」が持つ代謝的優位性
💡 この節の重要ポイント(結論)
- タンパク質は「食事誘発性熱産生(TEF)」が圧倒的に高く、摂取カロリーの約30%が消化過程で熱として勝手に消費(相殺)される。
- 筋トレをしている人が総カロリーオーバー分をすべてタンパク質で満たした場合、体脂肪が増えなかった、あるいはむしろ脂肪が減ったという研究結果が複数存在する。
さらにISSNの公式声明では、体重1kgあたり3.0gを超えるような「超高タンパク質食」に関する非常に興味深いデータも紹介されています。
一般的な栄養学の常識では、「カロリーがオーバーすれば、それがタンパク質であっても脂肪になる」と考えられがちです。しかし、筋トレを行っている人が「増えたカロリーのすべてをタンパク質」で満たした場合、総カロリーがオーバーしているにもかかわらず、体脂肪が増えなかった、あるいはむしろ脂肪が減ったという研究結果が複数引用されているのです。
これには、タンパク質が持つ「食事誘発性熱産生(TEF:Thermic Effect of Food)」が大きく関係しています。
| 栄養素 | 食事誘発性熱産生(TEF)の割合 | 特徴(体内での挙動) |
| タンパク質 (P) | 20 % 〜 30 % | 圧倒的に太りにくい。 食べるだけでカロリーの3割が消化熱としてセルフ燃焼する。 |
| 炭水化物 (C) | 5 % 〜 15 % | 標準的。 |
| 脂質 (F) | 0 % 〜 3 % | 極めて太りやすい。 ほとんどのカロリーがそのまま体脂肪として蓄えられる。 |
食事誘発性熱産生(TEF)とは、食べたものを消化・吸収・代謝するために消費されるエネルギーのこと。
脂質は食べたカロリーのほとんどがそのまま身体に蓄えられますが、タンパク質は摂取したカロリーの約3割が、消化する過程で「熱」として勝手に消費(相殺)されます。つまり、タンパク質は「食べても太りにくく、むしろ代謝の火を燃え上がらせる特殊なマクロ栄養素」なのです。

TEFの比較表を見ると・・・圧倒的!!脂質がほぼそのまま脂肪細胞に直行するのに対して、タンパク質は食べるだけでその30%が消化熱としてセルフ燃焼するの。減量期にカロリー枠を削るなら、脂質や糖質を削って、この超高効率なタンパク質の枠を絶対死守すべき理由が、この数字を見れば一発で理解できますね!
まとめ:減量期のマクロバランス戦略
第2回のまとめとして、明日からの食事戦略をロジカルに再構築しましょう。
- 「Lean」「Resistance-trained」「Hypocaloric」の3条件に当てはまる本気トレーニーの場合、減量期のタンパク質は「除脂肪体重1kgあたり2.3〜3.1g」を死守。
- 空腹に負けそうな時こそプロテインや鶏胸肉、魚などを補給し、ホルモンレベルで食欲をコントロールする。
- タンパク質特有の「高いTEF」システムを利用し、代謝を高く維持したまま絞る。
減量期におけるタンパク質は、単なる「筋肉の材料」を超えた、「カタボリックを防ぐ盾」であり「脂肪を燃やす燃料」でもあるのです。
しかし、どれほどタンパク質を完璧に摂取していても、巷の流行に流されて「間違ったダイエットアプローチ」を選んでしまうと、その効果は半減してしまいます。
次回は、ダイエッター永遠のテーマである「糖質制限 vs 脂質制限、そして断食(インターミッテント・ファスティング)」のどれが本当に痩せるのか、ISSNが下した科学的最終結論について暴露します。お楽しみに!

数式通りにアンダーカロリーを作り、この驚異のプロテイン量を確保する。これで筋肉の防衛ラインは完璧✨
次回は、世の中の不毛な論争『ローファットか?ケトジェニックか?』の真実について解説します。プロテインをシェイクして待っててください🥂
ありがとうございました。





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